9月例会報告

揺れ動く青少年の心理を考えよう

お話:栗村百合子さん(公立中学校カウンセラー)

≪相談室はマイナスの気持ちを安心して感じられる場所≫

今中学校では、どこの中学校でも相談室というのがありまして、ただカウンセラーは県で120人ちょっとで、カウンセラーがいる相談室と「心の教育相談員」のいる相談室と二本だてになっていて、分かりにくいですけれども…。

 学校が相談室に何を期待するかによっても違ってくるし、カウンセラーそれぞれの取り組み方や、できることできないこともそれぞれで違ってきますが、私は相談室にいる時に心がけていることは、場所づくりということです。不安だとか怖いなとか、嫌だなとか、マイナスでいけないものとされがちな気持を安心して感じていい場所であったらいいなと思っています。

 問題を抱えて苦しんでいる子に対しては、その問題を解決してあげようとか、どうにかしてあげようということではなく、そういう形でしか表現できなかった人をどう大事にしていくか、「問題があったからこそ成長していったね」みたいなことができる場所であればいいなと思っています。その人が正面から問題に向き合っていけるように何か手助けができればという、そういう場所かなと思っています。 

≪その子に何をしてやれるかより、どういう人間としてその子のそばに寄り添うか≫

問題行動というのは、今少年のいろいろな事件があって、甘いと言われるかもしれませんが、家庭裁判所にいた時の経験からも、どんな子どもであっても問題行動というのはすべて子どもたちからのSOSだと思っています。それが人にうまく伝わる形で出せないというか…。そういう問題行動を起こすことで、なんとか自分で生きていくバランスをとっていたり、本当のところもう問題を解決していかなければこれ以上やっていけないというところでおきてきたり、家庭や社会・文化の代表として感受性の鋭い子が感じて、問題を提起してくれているという側面もあります。問題行動を起こしている時は危機ではあるのですが、逆にSOSをちゃんと受けとめてくれる人がいれば、変わっていける大きなチャンスだと思います。危機をいかにチャンスに変えていけるかというのは大人の仕事だと思います。その子が、そこまでして何を伝えたかったのかという意味さがしを。その子はいつも同じような行動をしているわけではなくて、相手なり場所なりでいろいろ見せる面が違いますから、皆が違う見えてきた面を持ち寄って意味さがしができれば、と思います。

 どう受けとめて行くかという場合に、とりあえずどうその子と一緒にいられるかということなんですが、どう関わっていけるのかということを探します。その時につい、どうしても目の前の見える形で役に立ちたくなってしまうんです。何かを教えたくなったり、何かを指導したくなったりしてしまうんですが、その子に何をしてやれるかということよりも、どういう生き方をしている人間として、その子の側にいるかということがとても大事なのではないかと最近よく感じます。

 不登校のケースで、転校してきたばかりでなじめなくて、そのうちにロッカーとか机の下とかで胎児のようなポーズで動けなくなってしまって、お母さんが相談にいらしたというケースがあるのですが、その子は「もとの学校に帰りたい、もとの学校が楽しかった、そこなら私はやれるんだ」というような気持を綴って、お母さんに毎日毎日メモで渡していたそうなんです。お母さんはそれを受け取っても、自分は前の学校に帰してやれるかというとそれはできないと、それでその子に「手紙を毎日もらっても、お母さんは何もしてあげられないから、もう手紙は届けないで頂戴」と言ったら、その後、その子は胎児のポーズになってしまったようなんです。その子も何をしてほしいとか、見える形で何かやって欲しかったわけでは多分なかったと思います。前の学校に戻れないということはその子が一番よく分かっていたろうし、だけど側にいて分かっていて欲しかったのかなあと、思います。でも私たちそのお母さんと同じようなことをやっているなと、教えられたんですが。何もしてあげられないからと逃げてしまうのではなく、やはりそこに生きるということが価値のあることなのではないかと思います。

≪一緒にいる時、その子の痛みをどう理解するか≫

10年くらい前から、だんだん人とつながるパイプが細い子が増えてきました。働きかけても何も答が返ってこない、そういう子とどうつながってくかという時に、問題を抱えているというマイナスの部分でつながろうとしても、なかなかむずかしいので、それはとりあえずそこに置いといて、「好きなことは何?」というようなどちらかというとプラスの姿勢が出てきそうなところで、何とかつながっていかないと…。見ているよということを伝える伝え方も難しくなってきています。

 一緒にいる時に、その子の痛みをどう理解するかということなのですが、「よこの視点」と「たての視点」ということを私は考えています。
 よこの視点というのは、その子もシステムの中の一員なので、その子が出している問題はその子が属しているシステムの問題と無関係ではないのです。システムが抱えている問題は弱いところや敏感なところに出て来たり、またバランスが崩れてきている時にその子にしわ寄せが来たり、そういう面がとてもあります。社会が悪いからしょうがないということではなく、弱っている子にとってはその弱って出てくる問題というのは現代社会の抱えているところとつながりやすいなと感じています。

 たての視点というのは、発達過程の姿として見ていくという意味です。わらしべ長者の話を思い浮かべてほしいのですが、最初はわらから蕗へ、蕗の葉から味噌をもらって、味噌から刀に交換して、その刀で人を助けたら、それを見ていた長者が婿にしてくれてめでたしめでたしというお話ですが(交換するものは地域によって変わってきますが)、わらから刀へすぐには交換できないですね。段階を踏んで行かないと、かわらないですね。今、飛び級というような話もありますが、わらから刀へ行ってしまったら、絶対どこかで無理が出てきてしまいます。後から蕗の葉まで戻ってやりなおさなくてはいけなくなります。もちろん後からやりなおしはできますけれども、その時期なら苦労なく獲得できるものを後からやり直すということは、かなり苦しかったりします。

 思春期の問題というよりは、おなかにいるときから子ども時代にどう成長してきたかということ。思春期というのは、「中間決算の時代」とよく言われますが、それまでの子ども期をどうすごしてきたかが問われる時代。

 胎児期、乳児期の母親あるいは母親に代わる人に、絶対的に依存できて、絶対的に守ってもらって、何ができる、何ができないということには関係なく、いるだけで嬉しいよという関係を持って来れたかどうかということがとても大きいような気がします。そこのところを抜かしてしまうととてもむずかしいなと感じてます。絶対的に依存が必要な時期から、お母さんが甘やかさないようにと必要な甘さ・保護まで抜いていってしまう。

≪あなたはあなたで生きてていいんだよ≫

 精神科医の服部祥子さんという人が言っているんですが、人生を芝居にたとえて、子ども期が第一幕、思春期が第二幕で、二十歳を過ぎたら第三幕と。第一幕というのは船を作る時代で、お母さんがどう動くかというのが大きな鍵になってくると思います。第二幕になると、お母さんの出番は殆どなくなって、背景ぐらいのことになってくる。

 第一幕の船を作る時代なのですが、船を作るのはあくまでも自分で、エネルギーも自分で持ってるし、作る材料も生まれた時に持ってくる。どこからでも材料を調達できるものではない。どの子にも、どの大人にも『気質(たち)』というのがあると思います。相談室にやってくる子は、わりといろんなことをまともに深いところで受け止める子が多いのですが、そういう子が言うには、親に話すと「聞き流せ」「気にしなければいい」と言われると。それができれば苦労しないのです。聞き流せない、まあいいやといい加減に済ますことができない、一つ一つ気になるという、そういう気質を認めてもらえないと、自分がとても情けないもののような、無力なもののような気がして、苦しくて…。

 何かできる子という条件つきでないと自分は愛されないのではないかと思っている子が多いような気がします。成績が良いとか、誰とでも仲良くできるとか、言うことを聞くとか、そういう条件付じゃないと自分を認めてもらえないような、とっても自分への評価が低くて、自分に自信のない子が多いような気がします。自信には二つあると思うのですが、何もできなくても私は私でいいという自信と、私は人よりこれが上手とか、これができるとかという自信があると思います。人よりこれができるという自信は挫折しやすいですね。自分よりできる人はどこにでもいますし、上には上がいるんで、そういう自信は生きていくあてにはならない。生きていくあてになるのは、自分は自分、生きてていいよという自信。そういう自信はほっとけばできてくるものではなくて、「あなたはあなたで大事」という扱いをされて初めて、身につくもの。

条件付の中でくると、やはり条件付でないと自分を愛せない。ボランティアを義務化する話が出てますけど、人を大事にするというのは自分が大事にされて、「こういうふうに大事にされて気持良かった、こういうふうにされて嬉しかった」という体験をいっぱい持ってれば持ってるほどできることで、こうしなさいと言われたり、義務でボランティアへ連れていかれて育ってくるものではないと思います。

 小学3・4年で、心の枠組みをできるだけ大きくというと、とても抽象的なんですが、必要な時に必要な手をかけてもらって、人間関係の貯金をいくら持ってるかというようなことだと思います。プラスのことだけではなくて、つらかったこと悲しかったこと、苦しかったことも自分の中で人間関係の貯金になって、それをどう越えていったかというようなことになりますので、この時期はどれだけ豊かな人間関係を持てていくか、そこがとても大事だと思います。

自立的になっていく時期というのは、ひとりでいくのはとても不安なんです。子どもたちが不安定になってくる時期なので、どう安心を保障してあげるかというのは大事だと思います。不安が高まることでちょっと前へ戻る時期でもあるので、前にやり残したことをやりなおしていくことも、例えば母親とのしっかりとした絆を堅く持てるようにしたり…。離れていく前に「ほんとに私は私でいいの」と確かめて出ていくところがあります。そういう時にまとわりつかれてあげることも大事だと思います。「あなたはあなたでいいよ」と言って、送り出せればいいなと思います。

 思春期は第二幕、「船出して、近くの湾の中で訓練する時代」。トライアンドエラーの時代とも言われます。やってみて間違って、ちょっと沈没しかけては母港に戻ってきて、また立てなおして出ていってまた失敗して、という時期なのです。子ども時代のように、危ないからといって繋ぎ止めておいてはトライできないし、エラーが許されなくてもトライできないし、帰ってくる母港がないと子どもは怖くて出ていけないし、大人の新たな関わりが求められてくる時期になってくる気がします。

思春期はさなぎの時代と書きましたが、さなぎは中ですごい変化が起きていても、外から見たらただそこにあるだけで変化が見えないですよね。同じように、外から見てるとそうでもないし、私たちもその時期そうだったと思いますが、気がついたらやっていけないとこがあって、無我夢中で何とか乗りきったという、下を見ると怖いから無理に走り抜けた時期だと思います。中ですごい変化が起きている時代なんだなと見てあげることが、ちょっとこっちがゆとりを持って見てあげることなんだと思います。

おたまじゃくしが蛙になっていく時に、岩がなくて水だけだとそのまま蛙になった時死んでしまいますよね。それと同じで、思春期にはこれまでと違って岩が必要になってきます。その岩に親は絶対なりえなくて、この時期同じ年代の同性の友だちが大事になってきます。この時期には1人でいることはつらいことがあります。親ではなり得ないことがだんだん増えてきて、じゃあ親はもういいのかというとそうではなくて、確かにセリフや登場回数は減るのですが、でもどうしても必要な存在であることに変わりはありません。「あなたはあなたで大事」と優しく包み込む面も大事ですし、思春期はぐちゃぐちゃで自分でもどこまで行ってしまうか分からないような状態があるんで、ここからはだめ、ここからはいけない、危ないと壁になってとめてくれる存在というのがすごく大事になってくると思います。

≪バランスのとり方のしなやかさも生きていく力の一つ≫

 自分の内なる声と外からの声というのがあって、今、外からの声を支えるのに一生懸命で、そこだけ支えてきて自分の内なる声とのバランスをとることがなくて、外からの声を支えきれなくなった時崩れて行くというようなケースが増えてきたような気がします。どうバランスをとるか、バランスをとりそこねたときにどうするか、バランスのとり方のしなやかさも生きていく力の一つかと思います。どうやってそのしなやかさがついていくかというと、やはり、とり損ねては「ああそういうとり方もあるな」と、その繰り返しでしか、しなやかさは出てこない。失敗しないと次がないというような、いっぺんできてきたものを壊さないと次にいけないというようなところがあります。最近「きれる」と言われるのも、自分の内なる声のマイナスのものを感じることさえ悪いと蓋をしてしまっていることが多いのではないかと思います。マイナスなものに蓋をすると、蓋をすることにだけエネルギーを使ってしまって、他のことにエネルギーがまわらなくなったり、蓋の下で知らないうちにマイナスの感情がたまってしまって、噴出してきた時にどう対応して良いのか本人も周りにもわからなくてというような状況が「キレル」ということなのかと思います。マイナスのゴミも含めて自分がこういうことは嫌で、やりたくなくて、自分がどういうことなら好きでやりたくてというような、自分がどう感じるかが蓋をすればするほど分からなくなって動けなくなってしまう子が結構います。

自分はこれができない、これは苦手、これは嫌ということが言えなくて、「迷惑を掛け合いながらお互い様よね」と言える関係が今の大人にもなくて、その中で子どもにそれを見つけろというのは無理な話だなと思います。親同士、大人同士がネットワークを作って支え合っていけるということが、今とても大事なのではないかと思います。

(まとめ 浅井ゆき)