2004年5月例会報告

子どもたちが安心して、自信を持って、いきいきと生きられる社会に・・・

―千葉県子ども人権条例(素案) について―

お話:米田修さん(「千葉県子ども人権条例を実現する会」事務局長)

 

地域全体で権利関係を確認しあう、そういう関係を作るべきではないか 

 私の元々所属している団体「千葉子どもサポートネット」は、子どもの人権の擁護活動を13年行ってきています。障害児を普通学級に通わせる親御さんとか、不登校の親の会とかの方たちが参加しています。この活動の中で、問題が起こった時に学校や教育委員会に「こうしてほしい」という要望は出すのですが、学校や教育委員会は今の制度を変えようとしないという姿勢もあって、その都度の問題は解決しても、それがさらに広がっていかない。根本的に変わろうとしない行政側の姿勢があるものですから、自分たちは今どういう形で子どもの権利を守っていかなければならないのかと、話し合いました。各団体は、例えば障害児のお子さんを持つ方は、普通学級に入れたり、普通高校に入れたりという活動をしています。相談を受け付けて交渉するという活動もしています。ただそれが個々の問題で終わっているものですから、根っこのところでは共通の子どもの権利を守っていくという保護者の立場、子どもたちの意見を大人たちがきちんと聞いていくような関係性をつくっていくという、社会全体として変わっていかない。それぞれの問題として終わってしまっている。そこで、共通の問題として、千葉県内に提起していこうということで、1994年に批准された子どもの権利条約を改めて見直してみると、主体者である子どもが中心であるという基本的なところを踏まえて成り立っている。私たちが考えていることはそこに集約されるものがある。千葉県の子どもたちがより生きやすくするためにはどうしたらよいかを考えて、今までの取り組みをより積極的に行政側を変えていくような力にするためには何をすればよいかを話し合いました。

2000年6月から、子どもの権利条約の理念を条例化という形で、千葉県の中で権利を認めさせるものをつくる必要があるのではないかということを、県内各地で呼びかけ始めました。そして2000年12月に32団体の賛同を得て「千葉県子ども人権条例を実現する会」の設立総会を開き、条例化に取り組んできました。

個々の団体が行政と話をする中で、行政側・学校側の立場と住民・親の立場というのは、お願いする立場とそれを聞いてやる立場というのが随分見えてきました。基本的な住民自治の立場からすれば、そういう関係ではないだろう。地域全体で権利関係を確認しあう、そういう関係を作るべきではないか。それは何かと言うと、地域の法律である条例化をして、地域全体で「子どもの権利とは何か」「子どもの権利が侵害された場合はどういう解決方法があるのか。オンブズパーソン制度をつくるべき。学校の中にも第三者機関を作るべき」ということを確認しあう。

設立後、毎月学習会を開きました。児童相談所の相談員の方や保育園の先生、千葉の朝鮮学校の校長先生など、さまざまな現場の方たちに来ていただいて、子どもの人権が今どのような状況にあるのか、子どもの人権について何が問題かを提案していただきました。

2年目は、県内各地(千葉市・船橋市・柏市・茂原市)で市民集会という形で、市民や子どもたちにたくさん集まっていただき、それぞれテーマに沿ってフリートーキングをして、問題点を出し合いました。

また、それまでの2年間の活動をまとめた「それぞれが認め合って」という冊子を作りました。

去年6月から10月にかけて、子どもたちに、子どもの人権状況と意識についてのアンケート調査を行いました。回答していただいた方は567名。

3年目は、いろいろな機関の方たちと私たち「千葉県子ども人権条例を実現する会」との意見交換を行いました。おもに、児童相談所・県警本部・県の児童家庭課・県教育委員会・県弁護士会・家裁調査官の方などの団体などと交流を通じて、意見交換をしました。それと並行して、条例の素案づくりの作業部会を立ち上げ、1月からほぼ毎月集まって、素案を練り上げてきました。約1年かけてまとめ、この2月にようやく素案を発表するにいたりました。 

自分たちが活動してきた中で、子どもの権利をきちっと定めた条例化が必要 

私たちの人権条例の取り組みの特色としまして、

@       市民条例という形で、市民の側が子どもの権利条約の理念に基づいた条例化を求めているという運動というのは、(先輩格としては東京で「子どもの権利条例東京市民フォーラム」の取り組みがありますが、石原都知事のもと非常に厳しい状況にあるようです)全国的に見てあまりありません。

  権利条約を条例化しているのは、川西市(兵庫県)・川崎市・埼玉県などいくつかありますが、行政主導、市長・町長・知事が作ろうといってつくったのが圧倒的に多いです。私たちのように市民の側から条例化をはかろうというのは、少ないです。

   自分たちが活動してきた中で、子どもの権利をきちっと定めた条例化が必要だということで求めている。当事者としての要求があるから、市民立法として実現を求めていく。これだけの数の市民団体が横断的にまとまって、市民立法をつくろうという所は全国的に見てほとんどない。これだけの横のつながりを持って、子どもの権利を守っていこうというのは、全国的に珍しい。そして素案を作って、さらに県に要求していくという力があるというのは、千葉は素晴らしいと自慢していいことだと思う。

A       条例には二通りありまして、救済期間をメインにしたものとしては川西市の「子どもの人権オンブズパーソン条例」、埼玉県の「子どもの権利擁護委員会条例」などがあり、もう一つとしては川崎市の「子どもの権利条例」のように、子どもの権利を総合的にまとめて、救済機関も設置してというような総合的な条例化をしているのは、北海道奈井江町や岐阜県多治見市などです。
私たちの条例の中身は、子どもの人権とは何かということをおさえて、人権侵害があった場合に救済する救済制度もつくっており、総合的な条例の提案をしています。
 

 私たちのつくった条例の素案は、すでにつくられているほかの自治体の条例と比べると、特異な章立てになっています。「差別について」「虐待について」「親の保護を受けられない子どもについて」「障害のある子どもについて」「不登校について」それから「学校生活における子どもについて」「子どもの社会参加について」「非行を犯した子どもについて」、その後「オンブズパーソン制度」についてとなっています。

子どもの人権の内容に、こういう形で分けて章立てしているのはあまり例がありません。実際自分たちが活動している原点から出発しているものですから、こういう章立てになっています。市民の立場、活動している当事者の立場で条例の素案を考えているからです。 

千葉県人権施策基本指針について 

子どもの人権について所管するのは、県の児童家庭課になります。それともう一つ、学校の関係は県の教育委員会になります。そこのところと私たちは一緒に昨年2回勉強会を持ちました。市民と協同で勉強会をするというのは、今までの県庁の歴史の中でなかったようです。私たちが非常に大切に思っているのは、条例化をするためには県庁の側ときちっと詰めておきたいということです。非常にまどろっこしくて大変ですが、相互理解を深めていきたい。やるべきことはやっていきたいと思っています。

 千葉県の健康福祉部の中に人権についての担当部局がありまして、そこで県の「人権施策基本指針」が作られています。国の人権啓発推進法にもとづいて、各自治体は指針を作らなくてはいけないということで、この3月に発表されました。千葉県としてどう人権に取り組んでいくかということでまとめたものです。分野別で、女性の人権・子どもの人権・高齢者・障害のある人・被差別部落出身の人・外国人・ハンセン氏病の元患者・HIV感染者・性同一性障害のある人・同性愛者・ホームレス・中国残量孤児・犯罪被害者とその家族・被拘禁者・刑を終えて出所した人などについての総合的な施策の指針です。これをつくるにあたって諮問する懇話会を一昨年につくり、そこの提言という形で去年の9月にまとめました。その取り組みを知ったので、私たちはその懇話会と意見交換をしたいと申し入れ、昨年3月に意見交換しました。そして9月に出された懇話会の答申の中に、具体的に人権条例をつくるべきだという答申を出していただきました。救済機関も作るべきだと。その懇話会の答申を踏まえて、県の方が指針をつくるための検討をして、12月に指針案を発表したのですが、条例を作るべきだというところをばっさり削っていました。その素案についてのパブリックコメントでも、そこの部分をなぜ削るのだとかなり強く訴えましたが、削られたままです。救済機関については検討すべきだとされましたが、残念ながら人権全般の救済機関を作るべきだとなっています。ワンストップサービスという言い方をされていますが、一箇所で、誰でもそこに行けばすべて受け止めて対応してくれる制度の方がより県民のためだということを言っています。私は違うのではないかと思います。子どもには子どもの専門性があるわけで、埼玉県のように、子どもの権利についてのきちっとした救済機関を作るべきです。

 国はと言えば、1994年子どもの権利条約を批准した時に、文科省が「批准したからといって国内の政策を一切変える必要はありません」と言っています。法律も変える必要はないし、対応も変える必要もない。今のままで十分という趣旨のことを言っています。しかし、4年ごとに国連子どもの権利委員会にレポートを提出し、採点をされるわけですね。ついこの間も総括所見が出されました。象徴的な言葉としては、「第1回に言ったことを何もやっていない」とばっさり切られています。それに象徴されるように、「子どもは権利の主体である」ということを正面からおさえて、それを具体的に施策としてやっていこうという姿勢は国には見えません。

子どもの権利条約4条には、子どもの権利条約を国の施策として具体化しなさいということが条文としてあります。これは国だけではなく、地方自治体も一緒です。地方自治体もそれを具体化しなければならないんです。逆にいえば私たち住民は地方自治体に対し、それを根拠に、「具体化しなさい」と要求することができるのです。

 先日、札幌市が子ども部局というのを作り、教育委員会の一部も入って、横断的に子どもの権利条例を作るという観点から今取り組みを始めているようです。条例を作る運動の中で、行政も変わらざるを得ないのです。行政に改革を求めていく上での武器にもなります。既成の行政の区割りを我々に押し付けるのではなく、我々がもっと発想を変えて、子どもの人権に合うようにあなたたち変わりなさいよと要求できる条例化運動だと思います。子どもの権利条約が求めている施策の具体化というのは、各市町村にもある。昨年富山県の小杉町というところで条例を作りましたが、市レベル・町レベルでつくっているのです。ましてや人口47万都市の松戸市がつくらない手はないですね。それだけの力はあるはずです。求めていく根拠が、法律より上の条約という形であるのです。各地域で条例化を求めていく取り組みを、あるいは条例化にいたらないにしても、子どもの権利条約をより具体化を求めていくような取り組みをしていただきたいと思います。 

私たちは温かいご飯を食べ、温かい布団でしっかり守られながら眠りたい

私たちは祝福されて生まれたい 

千葉県子ども人権条例(素案)

前文

    私たちは祝福されて生まれたい。

    私たちは自分であることを否定されたくない。

    私たちはありのままで愛されたい。

    私たちは自分の意志で生きていたい。

    私たちはどんな暴力も受けたくない。

    私たちはどんな差別もされたくない。

    私たちは大人とも一緒に話し合っていきたい。

    私たちは意見を出していきたい。

    私たちは自分に必要なことを知りたい。

    私たちは自分がもっている権利を知りたい。

    私たちが困っている時は手伝ってほしい。

    私たちは温かいご飯を食べ、温かい布団でしっかり守られながら眠りたい。

    私たちはゆっくり育ちたい。

    私たちの話を聞いてほしい。伝えられない気持ちがあることを知ってほしい。

    私たち子どもにはプライバシーがあります。

    私たちが間違うことを認めてほしい。やり直すことを応援してほしい。

    私たちのいろんな生き方を応援してほしい。

    私たち子どもを一人の人間として大事にしてほしい。 

これが私たち子どもから社会へのメッセージ【手紙】です。

子どもたちがこういうふうに考えているということを、子ども自身で言葉にまとめたのが、この前文です。子どもたちが集まって、「子どもの人権って何?」といろいろ出し合った中から選択してつくった18項目です。今の子どもたちの人権状況がよく表れています。

私たちは温かいご飯を食べ、温かい布団でしっかり守られながら眠りたい」・・・子どもたちがこんな言葉を書かなければいけないというような千葉県の状況作っている私たち自身が非常に恥ずかしいし、本来責任のある行政の方たちには、なぜこういう言葉を書かなければいけないのかをきちんと受け止めて、考えてほしいと思います。この前文をまとめる作業には、船橋の恩寵園の子どもたちも入っています。今ああいう形で正常化していますが、本当にひどい状況の中で苦しみながら訴えたにもかかわらず、まともに答えてくれずに、逆に訴えた手紙を児童相談所の職員が、訴えている相手の園長に返してしまうようなひどい扱いをしています。そういうことをしていたのが県の児童行政。それを腹にきちっと受け止めて、私たちは千葉県の子どもの人権状況を変えていく責任があります。

 「祝福されて生まれたい」なんて、当たり前のこと。何でわざわざ書かなければいけないのか。生まれてくる子どもたちに何の責任もないのです。虐待の事件でも、個人に責任があるという形で、親の問題にすりかえてしまったら何も解決しない。その点のフォローを同じ地域住民としていかにしていくか。地域の中で子どもは育っていくのですから、家庭の中だけで社会人になっていくわけではないですから・・・。子どもの問題を家庭の問題として閉じ込めて、解決しようとしてはならないと思います。

 この前文が出発点です。基本的な共通の理解として、この人権条例を作りたい。単に子どもの権利条約を引き写して、つくった条例ではないのです。千葉県の子どもたちの状況を踏まえた上で、なぜこれが必要なのかを出発点にしています。

 親から指示・命令されるだけの関係ではなくて、子ども自身をきちっとした主体者として、同じ社会の仲間なんだよという位置づけをして考えています。

このような千葉県内の子どもの人権状況下にあって、千葉の子どもが希望をもって自分らしく生きていけるために今必要な社会的なしくみは何でしょうか。

 第一に、子どもの人権の基準を明らかにし、その事を県民や子どもを支援するすべての諸機関が承認し、守っていく事です。子どもたちが自分に付与されている人権とは何であるか、を知る事によって自分が人としての尊厳を持っていることを自覚できる事が重要です。そして、大人社会はその人権基準に沿って社会のしくみを整え、約束事として守っていく事が求められます。

 第二に、子どもの人権を守るための実効性のあるシステムを作る事です。具体的には「子どものためのオンブズパーソン制度」です。このことによって、子どもの意見表明が確実に保障される事や、社会の中で弱い存在である子どもの人権侵害のリスクを回避あるいは避難できるようにする事です。この制度はその意味で、子どもの人権に関する社会のセーフティネットというべきものです。

 子どもは大人のパートナーであり、未来を築くかけがえのない市民です。21世紀を子どもの人権が特別の事ではなく、高らかに掲げられる時代にしたいものです。           ―千葉県子ども人権条例(素案)第1章より―


不登校の子どもについて

1.      不登校であることにより偏見と差別を受けることがなく、すべての社会的な諸権利は保護される。

-1 不登校の子どもは、自らが育つ場を尊重され、学校外に安心して休息し、自己回復を図るための場所を自ら求める権利を有する。

など、不登校という現象だけをとらえて、学校に来ない子であるがゆえに問題児であるというとらえ方をするのではなく、子どもを中心に考えて項目を考えています。 

-2 学校以外の活動の場(ホームエデュケーションやフリースペースなど)を選択した子どもは、義務教育および高校教育を享受した場合と同等の援助を受ける権利を有する。

社会で今、制度として認められている学校教育制度からはずれる子どもたちは学習する権利を奪われている形になっています。学習する権利を守るために、制度としての学校教育を受ける子どもたちに税金をかけているのと同じような費用を払うべき。学校にいけなかった子どもたち、選ばなかった子どもたちには一切保証がない。運動してやっと、フリースペースに通う子どもたちに対する学割定期が一部認められるようになったが、そこに通うための費用はすべて自腹。 

3.不登校の子どもは、不登校に関わる県の政策について、当事者として関与する権利を有し、県は不登校を巡る課題について検討する場合は、当事者の参加を義務付けなければならない。

 単にお客様として審議される対象ではなく、自分たちのことを審議するのであれば、当然自分たちも参加して、きちっと自分たちの意見を言ってやるべきではないか。松戸の教育改革でも、教育委員会のシナリオ通りで、我々住民はいいように使われているような関係。大人もそういう関係です。そこのところが非常に問題。

フランスでは、学校評議会制度がありまして、中学校ですと学校評議会に生徒が参加しています。退学・懲罰の問題も評議会にどうすべきか諮って、きちんと意見を聞く。国のレベルでも高校生が代表として評議会に参加している。学校教育を決める、日本で言えば中教審のようなところでしょうか、そこに正式メンバーとして高校生が代表として入っています。単なる意見表明をするのではなく、年齢に応じた役割を与えながら、発言したことに対してきちっと責任を取るような市民関係をつくっていく。

千葉県の高校再編の問題では、審議会を作って延々と議論してきていますが、住民や生徒の代表は入っていません。当事者の生徒たちの意見も何も聞かずに、当事者の先生たちの意見も聞かずに、県教委は一方的にその結果を押し付けてくる。「皆さんのことを思って再編計画をつくっている」と言いながら。千葉高校の定時制を廃止して、内房にある浜野高校に3部制の単位制高校を作り、そこへ行けと言う。なぜ千葉高校から定時制を追い出そうとしているのかと言えば、教育委員会は言いませんけれど、千葉高校を中高一貫校にするためです。そのために定時制が邪魔なんでしょう。あるいは、千葉東高校という通信制高校があるのですが、比較的いい場所にあります。それを今度は若葉区の大宮という辺鄙な所に通信制高校を変えるのです。当事者の声を聞かずに高校再編を行っていく姿勢がみえみえです。

 

第3章オンブズパーソン制度

1.             千葉県は、子どもの人権問題に総合的に対応し、子どもの人権擁護を推進するために、子どもの人権オンブズパーソンをもって構成する「千葉県子どもの人権擁護推進センター」を設置する。

   ただし、本センターは原則として、各地域の権利擁護の第三者機関や学校、児童養護施設などに設置された権利擁護の第三者機関において、解決することが困難な事由についての権利擁護活動を行う。

   @同センターは、子どもの人権問題を監視するために、相談、支援、調査、調整、勧告、意見表明、要請、公表により、子どもの人権侵害の救済及び防止を行い、また子どもの人権擁護推進のための啓発・提言活動を行う知事の付属機関である。 

 こうしたオンブズパーソン制度が、本当に緊急に必要です。
恩寵園の事件がありましたが、児童福祉施設は各施設に第三者機関を作らなければいけないのです。第三者機関を作って、子どもの人権を守るために有識者の方や、施設を運営する法人以外の方たちを入れて、つくっています。これは必置義務です。

児童福祉施設でできるのに、なぜ学校でできないのか。各小学校・中学校・高校のレベルで、きちっと第三者機関を作って、問題が起こった場合そこに訴えて、調整してもらう。そういうことをすることが、子どもの人権を守る、本来の行政の役割。それを放置しておきながら、問題を次々起こしているということは、行政の怠慢です。そこのところを松戸市の教育委員会も含めて、自分たちの責任だと思っていません。それでいて、問題が起こった場合、教師個人の問題にすりかえてしまいます。教師の不適格ということで切ってしまいます。県の教育長は、二言目には「まことに申し訳ありません。この教員に研修させまして、二度と不祥事のないようにします」と言いますが、私たちは千葉県のこの3年間の研修の資料を情報公開で取りました。全く中身のない研修をしています。子どもの人権に根ざした研修は一切しておりません。研修なんて全く役に立ちません。きちっとした制度をつくらないと意味がないのです。

 そうした相談を受けて、支援活動をして、調査をして、問題があるというならば、オンブズパーソン機関が、直接県の機関に対する調査をする権限を持たせる。調査して、その結果、「子どもの人権擁護及び救済のために必要があると認めるときは、関係する県の期間に対し、是正等の措置を講ずるよう勧告し、または制度改善を求める意見表明を行うことができる」としています。

さらに、「勧告又は意見表明を受けた県の機関は、この勧告または意見表明を尊重しなければならず、是正等の措置について、同センターに報告しなければならない」「同センターは、関係する県の機関のとった是正等の措置が不十分であると認めるときは、勧告・意見表明および県の機関の報告の内容を公表することができる」さらに「同センターは、勧告・意見表明したとき、これに対する県の機関からの報告があった場合は、その内容及び県の機関の取った対応を申し立て人等に速やかに通知しなければならない」県以外の機関に対しても同様です。このように強い是正勧告をする権限を決めています。

このセンターの意味のあるところは、単に救済するだけではなく、そこから見えてきた全体の問題について、「子どもの人権擁護推進のため、県民に対し啓発を行い、提言を公表することができる」。センター自身が、相談活動の中で問題がある場合は、県に「こうした方がいいですよ」と提言できる。センターがそこまで強い権限を持ってやってくださいということです。

 私たちは県全体の条例としてやっていますが、これは松戸市で作っても全然問題ない。松戸市の中で、子どもの人権を守るために、これだけ強い権限を与えた第三者機関を作れば、泣き寝入りをするような形ではなく、きちっと子どもたちが守られる。これがあることによって、学校や教師たちに抑止力が働く。少なくても何かあった場合は救済されるセーフティネットとして機能する。

それに加えて、皆さんの活動の中から子どもの人権条例を求める運動をすることが、行政側を変えていくことになります。ぜひ松戸でも、このような条例づくりを試みてほしいと思います。

 

【意見交換から】

u     子どもの人権条例について、これまで考えたこともありませんでした。以前CAPのワークショップに参加してとてもいいと思い、大人も子どもも皆受ければいいのにと思いましたが、隣にいたお母さんが、「子どもが変に主張し始めると、やっかいだわ」と言ったのを思い出しました。親が大人としてしっかりしていないと、子どもの主張をちゃんと受け止められない。

u     障害があっても地域の学校に通わせたいと、教育委員会と闘いながら、お子さんを普通学級に通わせている方はたくさんいます。子どもたちを学校に合わせるのではなく、学校を子どもに合わせて変えなさいよと要求して、地域の学校に通わせています。地域の友だちの中で子どもたちは大人になっていくのです。養護学校に隔離された形で、地域と全く関係なく大人になっていくのは、『育ち』ではないのではないか。それを学校側は、「学校に来たいなら学校に合わせなさい」と言います。全く逆ですね。

u     県議会では、教師の評価制度をつくって、悪い教師はどんどん切り捨てろという意見が、このところ強く出ていて、教育委員会もそれに対応していこうとしている。第三者機関が必要だなぁと改めて強く思いました。

u     1994年に子どもの権利条約を日本が批准した時に、こんな素晴らしい条約を批准したならば、日本の教育はとても大きく変わるのではないかと期待しました。条約を後ろ盾にして、親も学校に何か働きかけをしていくことができるのではないかとも思いました。その頃と今を比べて、日本の教育は良くなっているどころか、むしろ子どもにとって非常に厳しく、親も苦しくなっている。日本が批准したからといってそれで良くなるわけではない。それを市民一人一人が使っていかないと良くならない。今日お話を聞いて、改めて、条例づくりに取り組む中で市民一人一人が認識を深めていくこと、自分の周りで権利条約の理念を具体化していく取り組みをするのも大事だと思いました。そして、条例を作ることがゴールではないとも思いました。

u     今日の例会を企画したのは、松戸の子どもの実態からスタートしていない松戸の教育改革への批判が出発点。今松戸の子どもがどういう状況にあるのか、学校がどういう状態にあるのかということをきちっと調べた上で、プランづくりをするべきだと考える人が増えています。当事者からスタートした松戸の教育改革プランづくりをする時に、この千葉県子ども人権条例を実現する会の取り組みから学ぶことがたくさんありました。

u     教育委員会がよく言うのは、「あなたたちのためですよ」ということ。ちゃんとした意見交換、そして聞いた意見を反映していくということが彼らの頭にない。それから最近よく言うのは、「自己責任」。本来行政側が取るべき責任を棚に上げて、「学校選択するのもしないのもあなたたちの責任ですよ」と言う。問題のすり替えをしていますよ。

u     条例があるから変わるわけではない。私たちがもっと積極的に変えようとしなければ変わっていきません。今後の私たちの課題としては、議会の方たちと超党派の勉強会をすることを申し入れ、理解してもらいながら、じっくり時間をかけて取り組みたい。

u     私の子どもは不登校でしたが、不登校の問題も、先ほどの障がいのあるお子さんの問題と同じだなぁと思いました。親としては地域で育ってほしいと思うのですが、子どもは地域の学校へ行かれない。学校の先生から勧められるのは、市の適応教室。あるいは、他地域にあるフリースクールやフリースペースのような居場所を自ら選んで行く。地域で育つということが保障されない。学校へ行かない権利も保障してほしいけれど、不登校の子どもが通えるような学校づくりをしてほしい。個別の問題からスタートしながらも、根本的な子どもの問題というのは同じなのだなぁということが、この人権条例素案を読んでいてわかるのが、とても素敵だと思いました。

u     学校に子どもを合わせるのではなく、学校が、子どもがいきいきと生活できるような場であるように変えていくことをしていかないと、子どもたちがつらい思いをしている。

u     子どもがきちっと自分の頭で考えて、自分の気持ちを育てるような教育の場でなくなっている。そのことをきちっと変えていくような運動として、条例づくりに取り組む運動は非常に意味があり、非常に重い課題だと思っています。それぞれの問題を抱えた子どもたちを目に浮かべながら、どうすれば変えていけるのかというところを運動としてつなげていければいいと思います。

u     この運動に取り組み始めた頃から、「大人はでしゃばりすぎる。しゃべりすぎる。子どものためと言いながら、大人はベラベラしゃべって、強い。行政とおんなじじゃないか。子どものためと言いながら、私たちの言うことをぜんぜん聞いていないじゃないか」と子どもたちに言われるのです。それに、どんどん進めるものですから、子どもの人権条例と言いながら、子どもの参加が非常に難しい。これはやりながら、ずっと課題です。松戸の教育プロジェクトを進めていく上でも、子どもたちがどう思っているのかを出発点にしていかないと。他の自治体で市長部局がやっている条例作りでは、必ず子ども会議のようなものを作っています。子どもに集まってもらって、何が問題なのか自由に発言してもらい、それを集約して、それぞれのところに反映している。これはものすごい努力と時間をかけて、子どもたちに合わせながらしていかないと進みません。それだけのエネルギーを覚悟の上でやらないとできません。子どもたちにも実にいろいろな意見がありますから、それにどう答えていくかというのは、私たち自身の力量が試されます。それをふまえていないと、私たち自身が行政と同じことをやってしまいます。

u     オンブズパーソン制度というのは一つのきっかけではありますが、個々の学校で保護者・教師・子どもたちが話し合うべき問題です。それをさておいて、上のほうで「こうしてください」ではないのです。子どもたちの意見をちゃんと聞いてくれるというような関係を日常的につくっていかないと。

u     先生同士の関係や、校長と先生の関係も自由に自分の意見を言えるような関係になっていない。

u     本来教育の場に服従関係は馴染まない。教職員は教育についての専門職であってほしいと思いますので、自分の意見を言ってもいいんだと受け入れてくれるような関係をつくってほしい。思うことと現実は違うのですが。

u     学校に関して保護者はあまりにもお任せ、特に父親は。親は、自分たちの子どもの教育について、もっと責任を持つべきだし、関心を持ってほしいし、そのことによって現実に問題点が見えてくる。それについての意見をもっと言うべきだし、そのことによって学校の中は変わってくると思う。