2003年5月例会報告

学校給食調理業務民間委託について考える

【保浦喜代美さんから問題提起】

今私は、高齢者の配食サービスという仕事をしています。
幼児期から小学生の時期の食生活は、今私が接している高齢者への、その後につながる基礎的なものだと思います。その時期にどんな食べ物を食べて、自分が自分の健康を守るためにどういう食事をすれば良いのか、そういうことも含めた食生活の基礎を学ぶ時期だと思います。色々あるけれど、最後に残るのはお金でもなんでもなく、自分の健康が唯一つの財産なのだと、高齢者と接していて痛切に感じています。 

≪子どもたちの給食について、お母さんたちはどれくらい知っているのでしょうか≫

私が子どもを学校に通わせていた頃、PTAで給食試食会を行っていました。学校で子どもたちが食べさせてもらっているのではなく、学校教育の中の一つとして給食があると思うし、わが子がどんなものを食べ、食生活についてどんなふうに学んでいるのかを親の責任としてきちっと知るべきだと思います。そこに異があるときは、親として「それは違う」ということをはっきりと言うべきだし、言う場を作っていかなくてはならないと思います。今の子どもたちが大人になって、高齢化していく日本の社会を作っていくのですから、その子どもたちがちゃんと健康管理のできる大人になってくれないと、高齢化問題はますます深刻になってしまうと思います。そういう意味でも、松戸市が何で民間委託するのか、とても疑問に思います。どうしてといくら聞いてみても、「経費節減」しかないようです。民間委託したらどうして経費節減できるのか、それについて私たちが納得できるような説明をしてほしいと思います。それでいて、教育としての給食をきちんと提供できるのか、疑問に思います。

実際、私は今委託業者としてやっていますが、NPO法人で営利を目的としていません。自分たちが食べたい配食をしようということで一貫しているので、すべて手作りですし、食材も全部自分たちで選んでやっています。大手業者は食材を大量に仕入れをすることもできるので、コストはかなり安いです。うちは、地域の商店や農家を利用している、全部手作りで行っている。常盤平という地域に限定したことで、働くスタッフもこの地域に限られています。作る人と食べる人の顔が見えます。

学校給食も全く同じことが言えると思います。長年同じ学校で調理に携わっている方たちがいて、異動する時には本当に「ありがとう」と言える交流が子どもたちとの間にありました。それが民間委託になった時に、どういう方たちが調理員として入ってこられるのだろうか。民間業者というのは、利益を上げるために当然安い労働力を入れてくると思います。きっといい方たちがパートとして入ってくるだろうとは思いますが、今までの市の調理員の方たちがやっていたのと同じようにできるでしょうか。人の入れ替わりも当然あるでしょう。今まで栄養士さんと調理師さんとでコミュニケーションを十分にとって作っていた給食が、方や市の職員、方や民間の業者では、栄養士さんがどんなに子どものことを考えて手作りしたいいものを作りたいと思っても、そのようにきちんと調理できるのでしょうか。私はそのあたりが一番心配です。

≪学校給食って何でしょう≫

以前、新聞で「食育」というテーマで特集を組んでいたことがありました。地方のあまり大規模でない、農家の子どもたちが大勢通っている学校で、今日は「○○さんの作った野菜が使われていますよ」と放送で流れていたり、教室で話されていたりしているということです。毎日毎日、顔の見える人が食材を作っているのですが、そうしたら残菜が少なくなったという記事が載っていました。松戸はそうした動きと逆の流れに行ってしまうのか。家庭の食事だけではどうしても偏ってしまうというのはしかたのないことだと思います。家庭では食べたことのない食材であったり、味であったり、学校で食べる機会があるというのは大切なことで、そういう意味での役割もとても大きいと思います。

今、若者の食生活がマスコミなどで大きな問題として取り上げられているけれども、それを学校でどう実践しているのか、子どもたちにそうした教育をきちんとできているのだろうか。それを文科省の責任でやろうとしないで、全部家庭の問題にしていくのは偏りがあるのではないかと思います。

1954年に学校給食法が制定されました。学校教育としての給食について定めたものです。『教育』(20021月号)という雑誌にこう書かれています。『その教育目標は、@こども・国民が自分自身を栄養し教養し自己の保存と発達に必要な正しい食生活を学ぶ、A食文化を通して社会的能力(人間的交わり、共同する力、自治能力)を育てる、B国民の食生活を改善するために食料の生産・流通・消費を学ぶことである』

それが実際に行われているかどうか。子どもに昼食を食べさせているというニュアンスをどうしても感じてしまうのですが、そうではなくて、学校教育として、子どもの食生活を考える場として、そして実践していく場として、給食をやってほしい、それが守られる体制にしてほしい。それには民間委託してもらっては困ると、私は思います。今、学校に通っている子どもたちの体に直接結びつくことだから、お母さん同士仲間を作って、一緒にやっていってほしいと思います。 

話し合いから


中学校を卒業するまでの食生活で、その人の人生が決まる

     松戸市の財政改革プランの中では、学校給食の民間委託だけではなく、栄養士の配置の見直しなどもあげられて、いろいろなところで経費削減しようということです。これはちゃんと見ていかないといけないと思いました。

     ここ45年前から、全国的に学校給食が民間委託になる動きの中で、「松戸として学校給食をどう位置づけるのか、子どもの食というものをどういうふうに考えているのか」ということを組合として聞いてきたのだけれど、その返事は一度も貰っていません。

     食は命です。中学校を卒業するまでの食生活で、その人の人生が決まるという統計も出ています。学校給食法の中でも、教育の一環として位置づけられているものを民間委託にして、それが守られるのか。自治体として、営利を目的としない場所に、営利を目的とするものが入ってくるということに対して、どう責任を取っていくのかと組合として言い続けてきました。利害関係がなくて、損をするかもしれないけれど、自治体で責任を持たなくてはならない所があるということをしっかり考えてもらわないと。教育と福祉を切り捨てる自治体に未来はないです。

足立区では… 草加市では・・・ 藤島町では… 品川区では・・・

     私は足立区に住んでいますが、足立区は日本で始めて民間委託の提案がされた所です。実際15年経って、デメリットがたくさん出てきています。15年経って全校委託になった時に、「これではやっていけないから、食材を任せてくれなければ撤退する」と業者が言い始めました。自治体としては、これから調理員を育てて自校方式に戻すというのは不可能なことです。大きな回転釜を回して、時間に間に合わすということはとても熟練を要することです。結局は、食材が業者の言いなりになってしまいます。食材ばかりか、栄養士も業者お抱えの栄養士にしてくださいと提案されてくる。安い食材で浮かしていかなければ営利につながらないですからね。

     草加市では長年給食まつりというのをやっています。市も協賛していてとても評判がいいです。地元の枝豆を「これは○○さんの枝豆」と言って、1年生に枝を取らせて給食に出すとか、なるべく地元の商店を使うなどの取り組みをしています。給食の食材を使って、地元に還元できるお金が9億のうち3億とか聞いています。地元経済の活性化につながっています。

     山形の藤島町では、センターが老朽化して建て替えの意見が出た時、民間委託しようという話も出ました。その時に、それだけのことをするのなら学校給食について学習しなくてはいけないと、議員たちが1年半かけて検討しました。その結果、公的な場所に委託はそぐわないという結論を出しました。

     民間委託の話が出た時に、私たち調理員も学校給食に何か付加価値を付けたいねと、もっといろいろなことができるということをしたいということで、教育委員会に申し出たことがあります。宅配サービスを学校給食で作って、地域のボランティアの人に運んでいただくことができないかと。品川では実際に、学校給食の調理員がお弁当に詰めて、時間になるとボランティアの人が来て各家庭に運んでいるということが行われています。教育委員会の人は、「ちょっと難しいですね」というだけでした。直営で給食をやれば、こういうこともできるのです。 

学校給食というのは、食文化を守る唯一の砦なのでは…

     小学校の用務員をしていて、子どもたちの食生活が本当に乱れているなと思います。朝来てだるいとか、保健室に何人も子どもたちがやってきて、養護の先生がいないと私が対応するのですが、「ご飯食べてきた?」「ううん」「牛乳だけでも飲んできた?」「ううん」「昨日何時に寝たの?」「11時か12時」そんな子がたくさんいます。親が栄養価を考えて食べさせているかというと、一目瞭然ですね。学校給食というのは、その辺の食文化を守る唯一の砦なのではないかと思います。ある小学校で給食民間委託の説明会をした時に、出席した親は16人だったそうです。親が食に関心にないということが、民間委託を阻止できない大きなものだと思います。

     学校からプリントが来た時は、決まったことなら仕方がないのかと思いましたが、こういうことって、保護者に何の相談もなく決まってしまうのかというのをまず感じました。その後何かおかしいなと思って調べてみたら、やはり大変な問題なのだとわかりました。皆が大変な問題なのだということを知れば、考えも変わると思います。皆に知ってもらうにはどうしたらよいのか。

     栄養士の先生は、子どもの食事についてとても気をつけていて、千葉の土地でとれた旬のものということで、ピーナッツ和えを作ったり、いわしの料理を出してくれたりしています。でも今回委託されたのは、東京の業者ですね。せっかくの千葉のものを使おうというようなとりくみはどうなってしまうのか。それと、調理員の方もPTA会員として、会費を納めてくれています。同じ会員として、もっといろいろ交流しようということで、今度給食試食会には調理員さんも一緒に懇談の席に来てくださると思います。

     マクドナルドの戦略という本を読んだら、「12歳までに食べたものがお袋の味になる。それでマクドナルドは、12歳までの子どもをターゲットにして、おもちゃ付きのものを作っている」と書いてありました。親も学校から学ぶという姿勢になって、子どもがどういうことを学んでいるか親も一緒に学ばせてもらう、そうしていきたいと思いました。 

民間委託にしたからといって、必ずしも経費削減にはならない

     栄養士がいるからといって安心しないでほしい。学校卒業したばかりの栄養士が、いろいろ考えたり、工夫をしたり、全部考えて作れるようになるには、10年くらいかかります。柏の委託業者のパート調理員の離職率は年間43%です。半分近くの人が1年間でやめていっています。調理員の位置づけって単純労務になっていますが、決してそうではありません。2〜3年の経験では使いものになりません。熟練を要するのです。手順を考えたり、とっさの判断をしたりということは、先輩がいてそれを継承していくシステムがあってこそできるのです。

     なぜ民間委託するのかというと、松戸市全体の職員削減計画の一環として行うということ。市民も参加して決めた行政リストラ会議で提起されたものによって、平成12年に財政改革計画が立てられ、その中に学校給食調理業務のあり方の検討ということも入っています。学校給食とは何かということを子どもの立場に立って考えたということではなく、松戸市の財政を立て直すためにどこを削ろうかという話で出てきたことです。

     委託料は右肩上がりに、多少なりとも上がっていきます。でも市の職員は60才が定年で、そこで25才の人を採用すると、平均の賃金はガクッと落ちます。市の職員の賃金はトータルすると横ばい状況になります。だから将来的に見れば、委託料の方が高いというのは明らかです。清掃業者は10年前位から委託になっているのですが、他の市とは比べ物にならないほど、額は高いです。直営でやったほうが安いくらい。委託料とはそういうもの。

     民間委託にしたからといって、必ずしも経費削減にはならないということですね。地元の農産物を使って、地元の経済を活性化するという、学校給食だけを取り出して考えるのではなく、松戸市全体の循環するような中で、もっとダイナミックに考えていけば、学校給食にお金がかかっても、直営でやればメリットとして得られるものが大変多い。そういうことまで見ていかないと、本当のコスト計算にはならないと思います。

     栄養士が直接指示を出せるのは、民間業者の調理員のチーフだけ。栄養士が現場に入ることも派遣法の関係でできません。

     栄養士と調理員が献立会議をして、同じ食材を使った料理が重なったり、同じ味付けの料理が重なったりしていないか、互いに点検したり、コミュニケーションをとることができます。

     全校で行われているとは限りませんが、栄養士が献立を決める前に調理員の所へ持ってきて、話し合い、最終的に調理員の意見も入れて決めています。

     本当に栄養士と調理員の共同作業なのです。火も使えば、刃物も使っているところなので、コミュニケーションがうまくとれている職場とそうでない職場では、できてくるものに大きな差があるし、事故の多さも違ってきます。

     民間委託になると、そうした献立会議のようなものはないから、栄養士さんが一人で献立を考えていかなくてはならないということですね。

     栄養士さんが、調理の現場をチェックできない、指示を出すのも間接的で、業者が指示通りに行っているかどうかを、いったい誰が評価していくのか。学校側が評価して、何も問題がなければ3年間は同じ業者に委託していくというやり方をとるというが、本当に学校給食の安全性を誰がしっかりと見届けられるのか。非常に問題。 

現在の社会情勢を子どもたちが一身に背負っている

     子どもがアレルギーを抱えている親は、どうしても給食が気になっているようですが、一方で食べさせておけばどうでもいいという親と両極端です。中間層がいなくなっているのが現状です。

     無関心な親は多いですが、そういう家庭の子どもにとっては、給食は命綱です。

     生活保護を受けている家庭も増えてきていますし、現在の社会情勢を子どもたちが一身に背負っています。子どもって大人社会を反映しています。社会を良くしていかないと、子どもたちにとって安住の場所はないだろうなぁと思います。

     今、近くの公園でも安心して遊ばせることができないような社会状況の中で、親たちは安心して子どもを外へ出せない。体も心も出不精になっている。だから回りとのコミュニケーションも持てない。精神的にケアしてくれる人も周りにいない。そしてだんだん追い詰められてしまう。

     そうした若いお母さんたちを責めるというよりも、これは今まで行ってきた学校教育の成果がそういう結果だと思います。若いお母さんたちが本当に人間らしく、きちんと育たないまま母親になってしまっていると思います。

     子どもを見る親の目というのは最大で4つしかない。でも、地域の人たちみんなで見ていけば、子どもを見る目はたくさん増えていく。そうすると子どもたちは変わってくる。親も最大限友だちを作って、子どもを見る目を増やしていくことが、本当は大人の仕事だと思います。 

親に関心を持ってもらうにはどうしたらいい?

     今回、連Pにも資料を送って、民間委託の問題を考えてもらえるよう働きかけをしたのですが、どこからも反応がありませんでした。

     Pは、松戸市内のPTAが全部加入している公的な組織ですから、連Pが動けば情勢は変わります。

     今回の民間委託については、せめてPTAの中で「民間委託って何でしょう」という会員の問題提起を受け止めて、学習会をするなどの取り組みをしてほしいと思います。

     調理員もPTA会員ですが、PTA総会が調理員の一番忙しい時間帯に開かれているので出席できません。4時半ぐらいにならないと出られないですね。

     親が関心を持つことが大きな力になると思うのですが、親に関心を持ってもらうにはどうしたらいいのでしょうか。

     私は、調理員の方とお話をするのは、今回が初めてです。調理員の方たちがどういう思いで毎日給食を作っているのか、実際の調理作業がどうなっているのかをうかがうのも初めてです。調理員の方たちの思いを知れば、親の給食に対する思いも違ったものになってきます。

     PTAで調理員の方と調理実習をするという企画はどうですか。柔軟に、いろいろな取り組みができるのではないでしょうか。家庭教育学級だと取り組みやすいのでは。

     私たちは、1年生には枝豆を枝からもいでもらって、給食に出したり、2年生にはとうもろこしの皮をむいてもらったりしているのですが、子どもたちは食材に関してビックリするくらい知らないですね。6月には高いですが千葉のビワを出します。「ビワって初めて食べる。どうやって向くの?」とか、「真ん中にこんなにいっぱい種があるんだね」とか、子どもたちが言います。家庭で季節のものとか、皮をむいたり枝をとったりということをしていないのですね。

     学校の近くにはまだ畑が多くあって、冬になると近くの農家の方から大根や白菜をいただきます。栄養士さんが畑に行って、農家の方が大根を抜いているところの写真を撮ってきて展示します。そういうところから関心を引き出すというのはとても大事だと思います。八百屋さんから買う野菜の方が扱いやすいのですが、子どもたちとのかかわりを持つという意味で私たちは頑張っています。

     PTAでこういう懇談会ができないですかねぇ。「調理員さんの苦労話・楽しかった話」なんてね。

     自治体の人員削減は非現業をきらないで、現業職員を削ってきている。

     むしろ事務作業の効率を良くして事務職員を減らしていくべきなのではないかしら。現場は大事にしていってほしいですね。

     現場というのは一度なくしてしまうと、元に戻すのは大変なのです。職員を育てるのも大変です。